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ナースの絵日記

今年もゴールデンウィークが終わり、香川県東部の人口2万6千人ほどの郡部に位置する診療所では、田植え作業の疲労で体調を崩す高齢者が来院する時季となった。

 

コロナ禍3回目のゴールデンウィークは、帰省する子や孫も増え、待合室では、そんな子や孫たちの進学・進級・就職、コロナ禍の式典でのこぼれ話など、よもやま話に花が咲いた。 

 

我が診療所の若手スタッフの息子さんもピカピカの小学一年生になった。

T君は、デニム地のランドセルで登校しているとのこと。

そんな最新ランドセル事情を聞き、保守的な讃岐地方でも、小学生はジェンダーレスカラーが浸透していると知り、驚いた。

 

そして、彼女は子どもの就学を機に、姓(氏)を変える計画をしていたので、この春、白衣に付ける名札を新調した。

 

昨今、問題視されている選択的夫婦別姓問題についても話が及び、どうせ名札を新調するのなら、「姓(氏)」にこだわらず、「名」を記してもいいのではないかということになり、彼女はあえて「名」を選んで名札にすることにした。

 

保険診療を行う診療所の受付業務の一つに、社会保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度、いずれかの保険証の番号や有効期限を確認することが義務付けられている。

 

普段、何気なく保険証の提示を求めているが、特に女性の婚姻に伴う健康保険証の変更手続きは、センシティブな内容だ。

 

結婚して姓(氏)が変わる、離婚して旧姓に戻る、ひとり親家庭の保険証(医療証)や、再婚して姓(氏)が変わると、再び保険証の変更手続きをしなければならない。

 

なぜ女性は、これほどまでにプライバシーを晒さないといけないのかとモヤモヤする瞬間だ。

 

戸籍上の本名ではなく、別の氏名(旧姓)の通称使用が認められるようになってきたが、本質的な問題解決には至っていない。

 

医療現場では、医療行為の説明と同意(インフォームドコンセント)をする場合、患者が小児の場合は、親権者。成年後見人には本人の配偶者、親、子、兄弟姉妹などの親族がなる場合も多いが、終末期のような患者の意思が確認できず、 家族が患者の意思を推定できない場合には、患者が信頼を寄せている身近な人、人生の最終段階を支える存在であるという趣旨で、法的な意味での親族関係だけでなく、より広い範囲の人(事実婚夫婦)を慣例的に認めている。

 

私が、夫と結婚した当時、夫婦別姓のことなど何も考えもせず、当たり前に夫の姓(氏)を受け入れたが、四半世紀が過ぎ、女性の社会進出に伴って、改氏による職業生活上や日常生活上の不便・不利益、アイデンティティの喪失などが指摘されて、それらの訴えに接すると、「たしかに。そうだよな。わかる。わかる。」と、今まで飲み込んできた思いが沸々と湧き上がってくる。

 

私の場合、讃岐で暮らしていて、旧姓を知っている人は誰もいないので、日常生活上不便・不利益を感じることはなかったが、「アイデンティティの喪失」という言葉が、胸に刺さった。

 

〈そうか、私は原家族を捨てて、文字通り、夫の家に入ったのだ。寂しさを感じる暇もなく、新しい環境に適応することに必死だったんだ。〉

 

原家族では「娘」「長女」、結婚してからは「嫁」「妻」「奥さん」「母」役割が染みついている私、今こそ、選択的夫婦別姓問題について、「私」という一人称で、じっくり考えてみようと思っている。

 

診療所の受付窓口で、女性患者さんが、遠慮がちに、旧姓に戻ったことによる保険証の変更を申し出る姿に、モヤモヤしていたのは、私が長年飲み込んでいた憤りのあぶくだったのかもしれない。

 

義父が亡くなって、長年未登記だった土地が判明。

かつ先々代が明治時代に抵当権に当てたままだったので、銀行にかけあい抵当権を抹消する手続きをしながら、存命している相続人14人の署名と印鑑証明を取り寄せ、遺産分割協議書を提出。先月ようやく相続登記が完了した。

 

法務局が作成した相続人の系図は、まさに家制度を表していた。

 

放って置きたかったけれど、こんな煩雑な手続きを次の代に先送りにしたら気の毒だという一心で、遂行した。

 

香川県在住 看護師 中原祐美子

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コメント: 2
  • #1

    ひとみ (金曜日, 22 7月 2022 10:06)

    遺産分割協議書のために、相続人14名分もひとりでは大変だったですね。
    法務局にも行ってお疲れ様でした。

    ゆーみんさんは、マンガが描けていいなぁと、思っています。

    私も、絵日記とか気楽に描けるといいなぁ〜

  • #2

    ゆーみん (土曜日, 06 8月 2022 13:33)

    コメントをありがとうございます!嬉しいです!
    日々起きる出来事の中からこれはと思うものをメモしておいて、文章を組み立てます。
    その時々の様子をイメージして、絵を描きます。絵を描く方はスイスイなのに、言葉にして原稿書き上げるのは、毎回四苦八苦しています。
    未登記のままだと、今後ペナルティーが課せられるそうなので、司法書士に連絡しましょう。今回ナースの絵日記で、取り上げた登記に関する書類は、正式には『遺産分割協議証明書』というものです。(補足しておきます)